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UTAU,作曲,花束ササグ,花蘭るな

【花蘭るな・花束ササグ】ナイトメアサーカス【オリジナル】

■□■□■ 概要 ■□■□■

ゆかいな さーかす おりのなか
さめない ゆめのと みずのなか

りと456の自音源UTAU「花蘭るな」誕生日&UTAUデビュー1周年記念曲。
花束ササグはサークルメンバー椎名初の自音源UTAUになります。

★3rd albam『Luna Calante』収録曲(5曲目)★
⇒通販はこちら

 

■□■□■ 動画 ■□■□■

 

■□■□■ その他配布物 ■□■□■

オフボーカル音源(ハモリ等なし)
オフボーカル音源(ハモリ等あり)
曲中で実際に使用したustセット

 

■□■□■ 構成 ■□■□■

(capo) intro(Aexp) ->
(1) A -> B -> S ->
(interludio) 間奏(Aexp) ->
(2) A -> B -> S ->
(interludio) 間奏(Aexp’) -> 間奏(B’)
(3) S’ -> S” ->
(coda) outro(Aexp”)

 

■□■□■ 歌詞 ■□■□■

ナイトメアサーカス
 作詞・作曲:りと456

まどろむ世界の歪んだ色
消えた手足でふわふわと

真っ白のピエロが笑っている
浮かぶ手招きついて往く

廻る世界 白いうさぎ 後ろ向きに跳ねてゆく
自分以外の全てが逆さまに動いて

暗闇の中でサーカスが愉快に客を笑わせる
口だけが笑うその影が月を孤独に引き落とす

 
「怖いよ?」「怖いの?」
「独りで大丈夫?」
「一人じゃないから大丈夫」
「違うよ」「違うの?」
「この世界では どこにいたって独りなの。」

止まる世界 白い光 あなただけを照らしましょう
お客様が見ているよ 小さなソリストを

暗闇の中でサーカスは愉快な客を待っている
手招きは空を引き裂いて 月を檻に閉じ込める

 
伏籠(ふせご)から見える湖に映るそれは月(つき)じゃない
悪夢から落ちるその月を決して救わぬ曲芸団

 
逃げ道を見つけたとしても誰も引き止めはいたしません
その深い水面の影(あな)に落ちるには少しの勇気が足りません

 

■□■□■ ストーリー を紐解くヒント■□■□■

・そもそもこの悪夢は誰の夢?誰が見ている夢?
・「真っ白のピエロ」はいったい何者?
・「廻る世界」の示すところとは?
・後ろ向きに跳ねるうさぎの正体とは?
・「自分以外の全てが逆さまに動く世界」が何を示しているのか?
・「サーカス」は何を表している?また、ピエロとの関係性は?
・「口だけが笑う」とは?
・「月」とは?
・二人でいるはずなのに、ササグはなぜ「この世界ではどこにいたって独りなの」と答えたのか。
・二人の会話で「一人」と「独り」が使われている。この認識の違いはなぜ?
・「お客様」とは誰なのか?
・「小さなソリスト」とは誰か?また、なぜ「ソリスト(独演者)」なのか?
・「檻に閉じ込める」の意味とは?
・なぜ「月」にふりがなが振ってある部分があるのか?
・曲芸団とサーカスは同じ意味で使っている。
・夢と現実の関連性は?
・深い水面の影(あな)の先はどうなっているのか?なぜ「勇気が足りない」のか?

 

■□■□■ ストーリー ■□■□■

※3rdアルバムCD「Luna Calante」及び、その他未リリースの関連曲のネタバレを含みます。
※この曲は、他のストーリーに関する部分の比喩・示唆等が多分に含まれています。これはまだ公開していないため、かなりぼかした表現にはしますが、ネタバレを完全にしないとは言いきれません。閲覧は十分に注意してください。
※まぁ、つまり、多分まだ読んでもあんまり内容分かんないと思います…(なので多分ネタバレ大丈夫です)

 
 

少女は気づいた。

赤みを帯びた荒れた地面。
この世のものとは思えない真っ赤な空。
世界の大穴のように浮かぶ真っ黒な太陽。

ここは夢だ。

少女は夢の世界を認識して自由に動くことができた。不思議な体験が出来る夢の世界が大好きだった。
でも、ここは何かがおかしい。
もやもやとした世界。
色や地面が歪んで、自分の存在が曖昧になる。
世界が朦朧としているせいで、意識がハッキリしているのに自分の存在を疑ってしまう。こんな歪んだ夢は今までに見たことがない。

「あれ?」

少女はもうひとつあることに気付き、声を漏らした。
前後の記憶がまるでない。
現実で自分がいつ眠ったのか、この夢の前に他の夢を見ていたのか、どうしてこの場にただ立っているのか、まるで思い出せない。
彼女はいつもであれば、夢の中でもその前後の記憶を正確に思い出すことが出来た。
しかし、今日はどういうことかまったく思い出せない。
感じたことのない妙な感覚に、少女は言いようのない不安を覚えた。

「だれか…」

少女は助けを求めるように小さく呟いた。
悪夢をハッキリとした意識の中で初めて見た少女は、それに耐えるにはどうしようもなく幼すぎた。

「るなちゃん…?」

ふと、少女を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえる。
花束ササグだ。
幽霊を普通に見ることが出来る少女にとって、彼女はたとえ幽霊であっても大切な親友のひとりだった。
ササグを見て、るなはひとつ思い出した。

そうだ。ササグちゃんと夢の世界に遊びに来てたんだった。
…ってことは、あれは夢の中のササグちゃんじゃなくて、本物のササグちゃんだ。

いつものように彼女は、いかにも幽霊らしく、手脚のない姿でふわふわとるなの元に近寄ってくる。

 
あれ?
ササグちゃんの手脚って…なかったんだっけ…?

 
曖昧な記憶が混ざり合うように、るなはその見慣れたはず姿にすら違和感を感じていた。

「心配したんだよ…?まさか、あんな…」

やっと見つけた少女に話しかけようとしたササグは、そこまで言いかけて、そのキョトンとした顔を見て口を噤(つぐ)んだ。
そして、少し驚いたような顔をしてこう続けた。

「もしかして…覚えてないの…?」

るなにとってその言葉は、確かにその通りだという感想しか生まなかったし、別に気に止めるようなことでもなかった。
ただ、そんな言葉の内容などどうでもよくなるくらいに、ササグの表情になんとも言えない違和感を覚えていた。

「覚えて…ないけど…あれ?ササグちゃん…なん…で……」

言いかけて言葉を濁らせる少女。
その目線の先では、ササグが恐怖の表情を見せている。

「ピエロだ……」

るなの後ろに目線を固定されたササグが、震える声でそう漏らす。
いつも無表情だった親友の「見たことのない反応」に驚き、るなも目線の先を確認するために振り返った。

手首から先のない真っ白なピエロが、声なく笑いながらこちらをじっと見つめている。
その周りには、ピエロのものと思われる手がふわふわと浮かんでおり、二人に向かって手招きをしている。
ジリジリと後ずさりをするピエロは、少し滑稽で、どこか不気味に感じる。

るなはその姿を見て、「このピエロについて行かなくちゃ」と直感的に思った。
好奇心だろうか?
るな自身にもそれは分からなかったが、とにかく「ついて行かなければならない」という気持ちだけが頭の中に渦巻き、まさに誘われるように、ピエロの方にフラフラと歩き始めた。

「待って!いっちゃダメ!!!」

その姿を見てササグが珍しく…いや、るなの記憶にある限り初めて聞くような大きな声をあげた。
その声に、一瞬るなが振り向く。
目には「あの日」のように光がない…。
その深く沈んだ飴色の瞳に、ササグは声を詰まらせた。
その目はまるで自分を責めているようで…思い出したくない自分の過ちを思い出させるようで…
彼女の中に深い後悔と自責の念が渦巻き、まるで周りの空気がなくなってしまったかのように声が出ない。
るなは、その姿を一瞥(いちべつ)すると、何事もなかったかのように再びピエロの方を見て歩き始めた。

 
なんだこの世界は…
自分を置いて、まるで操られるように歩く少女の姿を見てササグは思った。
ここは彼女の夢じゃないのか?
あれではまるで…

そこまで考えて、彼女は思考を止めた。
これ以上考えても仕方がない。
どのみち目に映る彼女を放っておくことはできない。
ついて行く以外に道はない。

ササグは恐怖で、無い手脚がガタガタと震えるのを感じていた。
怖い。行きたくない。
あまりの恐怖に、彼女は一度地に目をやった。

ちゃんと脚がない。
大丈夫。
今の自分だ。
今の私は大丈夫。

自分に言い聞かせるように頭の中で唱えて、ササグは再びるなの方に目をやった。
そこには、今までいなかった「見覚えのあるうさぎ」が、少女たちのあとを後ろ向きに跳ねながらついて行っていた。

…そういえば、あの時もそうだった。
新しい世界の始まりは全てが逆向きに訪れた。
そういうことか。と彼女は何かに納得したかのように呟いた。そして、私はやはり彼女を追わなければ、止めなければと、そう結論づけていた。
恐怖など関係ない、と決意を新たにした彼女がるなに向かって動き出した時、突然あたりはサーカス会場に変わってしまう。
夢特有の唐突な場面転換。
目の前にもう2人はいない。
ササグは一人きりでサーカス会場の中心でスポットライトを浴びていた。

 
お前に彼女を救うことは出来ない。

 
昔誰かが言ったかもしれない、そんなセリフが聞こえてくる。
ササグはそのタイミングの良さに違和感を覚えた。

私の意思が夢を変化させたの…?
私はこの世界に干渉出来ないはずなのに…

やはりこの夢は何かがおかしい。
これまでもササグは、何度か少女に取り憑いて同じ夢を共有してきた。
しかし、それはあくまでも少女の夢を一緒に「見ている」だけ。
ササグはこれまで、少女の夢に干渉することは出来なかったのだ。
なのに今回、自分が「ついて行こうと決意した瞬間に」世界は書き変わった。

「もしかして…アレのせいで、私とるなちゃんの夢が一部繋がってしまったの…?」
考えを巡らせるように俯くササグ。その姿を見たからなのか、観客席から笑い声が聞こえてくる。
それはまるで、扉を挟んだ先で聞こえるテレビの笑い声のように、遠くの世界から聞こえてくる感覚。

スポットライトを浴びながら、聞き覚えのある客席の笑い声を耳にして、彼女は恐怖と孤独を感じていた。

 
………

 
スポットライトを浴びながら、聞き覚えのある笑い声を耳にして、少女は恐怖と孤独を感じた。
自分が空っぽになっていく感じ…
覚えていないのに、感じたことのある感覚…
一瞬、るなの背中にゾクッとする寒気が走った。
ハッとして、ぼんやりとしていた意識から覚め、周りを見渡す。
少女はいつの間にかサーカスのステージに独りで立っていた。
笑い声は客席からだ…
なぜか感じたことのあるこの孤独感…
その孤独が呼び水になったのか、るなはこの世界に来る前に見ていた夢の中で、ササグに言われたことを思い出していた。

 
「怖いよ?」
「怖いの?」
「独りで大丈夫?」
「一人じゃないから大丈夫」
「違うよ」
「違うの?」
「この世界では、どこにいたって独りなの。」

 
記憶からは、さっきのようなササグに対する違和感を感じない。
あの会話は…いったいいつ…なんで、したんだっけ…?
思い出そうと自分の記憶に集中するるな。
周りの音が聞こえなくなっていく。
…いや、集中で周りの音が消えたのではない。
周りの世界が全て止まったかのように静まり返ったのだ。
自分だけを照らす白い光が周りを見えなくして、今いったい何が起こっているのか分からない。
考えようという気持ちが起きなくなるほどの強い孤独感。

 
これからが楽しみだな。

 
唐突に冷えた男の声が聞こえる。
たぶん…ピエロだ…。少女はなぜだかそう感じていた。
怖い。その声を本能的にそう感じて、逃げ出そうとするるな。が、体が思うように動かない。
縛られているわけでもないのに、全く逃げることができない。
いや、動かないというより、動かす気が起きないと言ったほうが正しいかも知れない。
疲労感にも似た無気力を感じたとき、突如、暗いサーカス小屋の天井が巨大な手によって引き裂かれた。
外は夜になっている。
ページを破り捨てるかのように次々と周りの景色が引き裂かれ、その下から現れた世界の中で、気づけばるなは湖の前に置いてある檻の中にいた。

それはまるで鳥かご。
錠もしていないカゴの扉。その扉に近づき、るなは外に見える湖を眺めた。
出ようと思えば出られるのに、体が言うことを聞かなくなったかのようにその扉を開ける力が出てこない。

湖には夜空に浮かぶ月と自分の顔が浮かんでいる。
いや、よく見ると違う。
それはどんどん暗く、黒くなっていき、ゆらゆらと揺れる大穴のようになった。

「その先に行ったらもう戻れないかもしれないよ?」

どこからともなくササグの声が聞こえる。

「そこは私も知らない悪夢。」

いや、これは自分の記憶だ。
いつかの記憶。思い出せない記憶。

 
「落ちればいいんだよ。ここよりさらに深い夢に行きたいのなら。」

耳元で突然男の声が聞こえて、るなは驚き振り返った。
誰もいない。
でも、あれは確かにあのピエロの声だ。冷め切った…人のものとは思えないおぞましい声。
そしてきっと、落ちるとはこの目の前に浮かんだ湖の穴のことだろう…

穴をジッと見つめる少女。

少女は知っていた。その先に待つのはさらなる悪夢であると。
少女は知っていた。その先は「あのうさぎ」の向かう先だと。
少女は知っていた。自分の探すものはこの先にあるのだと。
少女は知っていた。行ってしまったらもう戻れないかもしれないと。

 
お前に彼を救うことはできない。

 
そんな言葉が心の奥から聞こえてくる。
震える脚と、力のない腕。

扉を開けてその影の中に身を投じる勇気は、彼女にはもう残されていなかった。

 

 
— Nightmare Circus —